大腸癌
横浜市立大学附属病院 消化器外科における大腸癌の外科治療について
1.診療について
大腸疾患、特に近年増加傾向である大腸癌の手術治療を行っています。
当科では開腹手術に比べて小さな傷ですむ鏡視下手術(腹腔鏡手術・ロボット手術)を95%ほどの症例で行っています。
- ロボット支援下手術(ダヴィンチ手術)を積極的に行っています
2015年10月から前任の石部敦士らにより直腸癌に対するロボット手術を導入し、2018年の保険収載以降はロボット手術のプロクターを中心にロボット術者を育成し,当院は県下でもトップクラスの症例数と実績があります。
当院にはda Vinci Xi surgical systemが2台あり,ロボット手術枠を調整できる体制となっています。鏡視下手術のうち,2018年から直腸癌において,2022年からは結腸癌においてロボット手術が保険収載されたことを受け直腸癌だけではなく, 結腸癌に対してもロボット手術で行う症例が増えています。鏡視下手術(腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術)では開腹手術と比較して、傷が小さく、痛みが少ない、手術後の回復が早いなどの特徴があります。
またすべての鏡視下手術には日本内視鏡外科学会で認定された技術認定医(大腸)が関わり、質の高い手術を行っています。
患者さんのQOLに大きく関わる直腸癌の手術において,今では一般的となった自律神経を温存した手術をいち早く取り入れ,術後の排尿・性機能障害を防止に努めてきました。
肛門に近く、進行した下部直腸癌では、欧米においては手術前の化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)が標準治療ですが、本邦では手術+骨盤内リンパ節郭清(骨盤内のリンパ節を摘出)が標準治療とされています。以前から術前化学療法(手術前に抗がん剤を行う)を施行し,がんを小さくしてから手術をすることによりできる限り自然肛門を温存し、術後のQOL(生活の質)が悪くならないような治療を行っています。最近では放射線治療,抗がん剤治療,手術を組み合わせて治療を行うtotal neoadjuvant therapy(TNT)という治療が出てきています。効果によっては手術をせずに(NOM: non operative management)経過をみて(Watch and wait),手術が回避できる可能性もあります。しかしまだエビデンスが十分ではないことから国内では臨床試験が組まれています。当科ではこのような臨床試験にも参加し,患者さんが幅広い治療を受け得る体制を整えています。
また、転移が見つかってしまった場合でも当科の肝臓外科チームや抗がん剤を専門に扱う臨床腫瘍科、放射線科の専門医と密に連携を取り、患者さんに最適な治療を心がけています。
担当医の紹介
小澤 真由美(おざわ まゆみ)
- 日本外科学会 専門医
- 日本消化器外科学会 専門医・指導医
- 日本内視鏡外科学会 内視鏡外科技術認定医(大腸)
- 日本内視鏡外科学会 ロボット支援手術プロクター
- DaVinci Certificate of Surgeon console
- 日本ロボット外科学会 Robo Doc certificate 国内B級
- 日本大腸肛門病学会 専門医・評議員
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
中川 和也(なかがわ かずや)
- 日本外科学会 専門医
- 日本消化器外科学会 専門医・指導医
- 日本内視鏡外科学会 内視鏡外科技術認定医(大腸)
- DaVinci Certificate of Surgeon console
大矢 浩貴(おおや ひろき)
- 日本外科学会 専門医
- 日本消化器外科学会 専門医
- 日本内視鏡外科学会 内視鏡外科技術認定医(大腸)
- DaVinci Certificate of Surgeon console
2.診療実績
2023年の大腸癌原発切除(NET、GIST含む)の手術件数は横浜市立大学附属病院93件、市民総合医療センター消化器病センター339件、合計436件(2022年436件)でした。
手術治療においてはロボット手術が急速に普及してきており、直腸癌は約70%がロボット手術で施行しています。全体としては2023年は結腸癌のロボット手術の増加に伴い,両施設ともロボット手術数が腹腔鏡手術数を上回りました。
局所進行直腸癌の治療においては、2022年に引き続きENSEMBLE試験(SCRT + CAPOX vs SCRT+ CAPOXILIのRCT)に参加しています。これまでTME+側方郭清,もしくはCRT後手術を基本としていた局所進行直腸癌ですがTNT(Total neoadjuvant therapy)が導入され,更に放射線化学療法によりcCR, nearCTが得られれば手術をせずに注意深く経過を診ていく(watch and wait)治療概念が出てきています。まだ標準治療とはなっておりませんので,特定臨床試験で行っていくことが勧められています。
臨床研究としては、特定臨床研究として直腸癌腹腔鏡下手術における一時的回腸人工肛門造設に対する癒着防止材の有効性に関する多施設共同ランダム化比較試験 (ADOBARRIER study)や,結腸癌患者に対する腹腔鏡下結腸切除術・体腔内吻合の在院日数短縮効果を検討する並行群間ランダム化比較試験 (CONNECT study)を行なっています。またMSI-high大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の有用性が報告される中、術前治療として切除可能MSI-H大腸癌にICIを行う特定臨床研究についても症例集積中となり,今後も新しいevidenceを確立できるよう努めております。
(文責 下部消化管グループ 小澤真由美、大矢浩貴)
3.治療成績
5年生存率(5ねんせいぞんりつ)とは、ある疾患の予後を測るための医学的な指標であり、診断から5年経過後に生存している患者さんの比率を示します。
治療効果判定のために使われることが多いですが、あくまでも集団を対象とした指標ですので、それぞれの患者さんの余命ではありません。
Stage別の5年生存率は結腸癌:I=95.1%、IIa=87.5%、IIb=86.7%、IIc=69.6%、IIIa=83.6%、IIIb=79.1%、IIIc=60.8%、IV=40.6%(手術症例のみ)、直腸癌:I=93.1%、IIa=90.5%、IIb=73.3%、IIc=64.5%、IIIa=80.9%、IIIb=68.0%、IIIc=57.3%、IV=35%(手術症例のみ)となっております。
4.研究について
当院では新しい治療を目指すための先進的な研究を数多く行っています。
また横浜市立大学消化器腫瘍外科学ではYokohama Clinical Oncology Group(YCOG)に所属し、他の参加施設と共に多施設共同研究を行っています。
以下にその中で大腸癌に関連した研究テーマを記載します。
【結腸癌に対する臨床研究】
- YCOG1305(PROBE study)閉塞性大腸癌に対するFOLFOXを用いた術前化学療法の臨床第Ⅱ相試験
- YCOG1402(SOAP study)Stage III大腸癌治癒切除例に対する術後SOX療法の投与量および治療スケジュール最適化のための探索的ランダム化比較第II相試験
- YCOG1404 腹腔鏡下大腸癌手術におけるエノキサパリン投与の有効性および安全性に関するランダム化第Ⅱ相試験
- YCOG1603 腹腔鏡下大腸癌手術における抗血小板薬継続と非継続の比較
- YCOG1903 大腸癌手術における腹腔鏡用洗浄装置の有用性を検討するランダム化比較試験
- YCOG2004 結腸癌患者に対する腹腔鏡下結腸切除術・体腔内吻合の在院日数短縮効果を検討する並行群間ランダム化比較試験(CONNECT試験)
- YCOG2101 閉塞性大腸癌の治療成績に関する多施設共同後ろ向き観察研究
- JFMC46-1201 再発危険因子を有するStage II大腸癌に対するUFT/LV療法の臨床的有用性に関する研究
- 大腸癌研究会プロジェクト研究 結腸癌の至適切離腸管長に関する前向き研究
- 大腸癌研究会プロジェクト研究 脾弯曲部癌におけるリンパ節転移領域と頻度に関する多施設共同コホート試験
【直腸癌に対する臨床試験】
- YCOG2005 直腸癌腹腔鏡下手術における一時的回腸人工肛門造設に対する癒着防止剤の有効性に関する多施設共同ランダム化比較試験(ADOBARRIER study)
- 腹腔鏡下大腸切除研究会プロジェクト研究 腹腔鏡下直腸癌手術後の縫合不全予防に対する近赤外光観察を用いた腸管血流評価の有効性に関するランダム化比較試験(EssentiAL study)
- 腹腔鏡下大腸切除研究会プロジェクト研究 腹腔鏡下直腸癌切除における技術認定医手術参加の有用性に関する検討(EnSSURE study)
- 局所進行直腸癌を対象とした術前放射線療法ならびに術前化学療法後の根治切除の有効性・安全性を検討する臨床第Ⅱ相試験(ENSEMBLE study)
- 局所進行直腸癌に対するmFOLFOX6+Panitumumab併用周術期化学療法の臨床第Ⅱ相試験
- 治癒切除可能直腸癌における内視鏡手術支援ロボット手術の安全性および有効性に関する研究
【切除不能大腸癌に対する臨床試験】
- YCOG1309 高齢者切除不能進行再発結腸直腸癌に対するXELOX+ベバシズマブ併用療法におけるオキサリプラチンの至適休止時期の検討
【その他の研究・試験】
- YCOG1801 大腸神経内分泌腫瘍に対する治療成績に関する多施設共同後ろ向き観察研究
- 大腸癌手術における術前腸管洗浄液と経口抗菌薬が腫瘍関連微生物に与える影響の解明
- 肥満大腸癌患者における手術検体を用いた腫瘍先進部での硫黄呼吸関連代謝物の亢進と再発の関連
- 大腸癌診断における排便時ガス成分と硫黄呼吸の関連に関する研究
- エンハンサー解析手法を用いた大腸癌リンパ節転移の有無による原発巣の差異の解明
- MSI-H/dMMR大腸癌における分子生物学的特徴とPD-1阻害剤の治療効果に関する研究
- MSI-HまたはdMMRを有する進行大腸がんを対象とした術前化学療法としてのニボルマブ単独療法の安全性・有効性を検討する単施設第Ⅱ相試験
これらの臨床研究に関しては、患者さんのご理解とご協力をいただきながら進めてまいります。